デザインの現場から。と言いつつほぼデジカメの噺。
by MASANOBU HIZAWA(アートディレクター/グラフィックデザイナー)
http://www.neelmartin.com/
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沿線の傾向
営業マンほどじゃないにしても、僕らの仕事もクライアントさんとの打ち合わせその他で結構ちょこまかと外出があります。前にも書きましたが仕事での移動に自分のクルマを使うことはあんまりないですね。渋滞ってやつがあるので所要時間が読めなくなりますんで(ま、それ以前に出勤自体が電車ですし。うー、駐車場に置きっぱなしのクルマ、そのうち野生のリスとかアライグマとかが住み着いてたらどーしよう。「宮崎アニメにでてくる廃墟」みたくコケに覆われたような絵柄がたまにリアルに思い描かれるんだよねー、半月くらい愛車ほったらかしにしてると……)。
ということで電車・地下鉄・バスと色んな交通機関に乗るんですが、東京の車内広告って沿線ごとに特徴があって面白いですね。私鉄ですと系列のデパートの広告だったり沿線の先のほうの分譲住宅とか療養施設とかだったりが多いんだけど、たとえば西武線と東急線だとまた微妙にデザイン・テイストが違ったり(あえてどっちがどうだとは書きませんけど)とか。地下鉄でも渋谷と浅草を結ぶ銀座線だと、フレンチレストランのオープン告知と仏壇屋のポスターが並んでたりして。
都営浅草線という地下鉄にもたまに乗るんですがあの路線の車内広告も実に不思議な世界です。
「腰痛・関節痛、ご相談ください」という診療所のポスターと「債務整理・自己破産、お手伝いします!」という法律事務所のポスターがやたら多い。



とくに債務整理はやたら多い。キャッチコピーも落涙モンで、「取り戻しましょう、あの日の輝きを」とか、筆文字で「あなたならきっとやり直せる!」とか、励ましてんだか痛めつけてんだか判らないのが多い。ひとつの法律事務所がたくさん広告出してるってんならまだ判るんですが、色んな事務所が争うようにポスター出してるのね。同じ車両の中に「債務整理」のポスターがいっぱいあるもんだから、見ているうちに身に覚えがないのに目的の駅に着く頃にはすっかり気持ちが暗くなってしまうという。
なんなんですかねあれは? とくに浅草線沿線に「関節痛を抱えた多重債務者」が集中しているとも思えないんですが。でももしそうだとするなら、医師免許と弁護士資格を両方取得してこの沿線で開業すれば無敵ですね。「関節痛と債務整理、一挙に解決!」……なんか嫌だなそれも。
ムーミン、かく語りき。


ライターさんからテキスト原稿が届いたので先日撮影に立ち会った某食品媒体のレイアウトにいそしむ1日。
えー、業界随所で盛り上がりをみせているCS3噺には先日書いたような事情でしばらく参加できなさそうなので、悔しいので現行の環境を自慢する、とキーボードの上のムーミンが申しております。みっともないから止しなさいと僕は言ったんですが、ムーミンが言うことを聞きません。
ちなみにこのムーミン、事務所を訪れたお客さんに「あ、コレこないだのフィンランドで買って来たんでしょ」と言われたんですが違います。買って来たムーミンママのヌイグルミはクライアントでもある友人に子供さんへのお土産としてあげたんです。あげてから、事務所の守り神(?)として自分用にも買っときゃよかったなと思ったんですが今更どうすることもできず、結局ヤフオクで買いました。なにやってんでしょうか僕は?

さてMacの入れ替えを敢行してから半年強、実のところ、OSXよりもCSよりも仕事の効率化に貢献してくれたのが30inch Cinema HD Displayですね。ちょっと後から着色しましたが画面左「A」が、ライターさんから届いたwordのテキストデータ。で真ん中「B」がCS2イラレの作業データ。「C」はイラレの操作パレットです。
これだけいっぺんに表示しながらの作業は、以前はできませんでしたもんね。原稿データと作業データが前後に重なってましたから、テキストをコピーする度にアプリの切り替えをしなきゃならなかったワケです。照らし合わせのチェックの時もそうですね。あと操作パレットも、ヒザワの場合フォトショップであればレイヤが、イラレであればリンクがズラーッとたくさん並ぶケースが多いので、以前はデュアルに繋いだサブ・モニターのほうに無秩序に移動させてたんですが(目とマウスの移動距離が大きくて疲れるんですよアレやると)、今は縦一列にスッキリ収まるようになりました。
もちろんデザインデータそのものもA3見開きが原寸で一発表示できますから、拡大表示して作業して、縮小して全体のバランス確認して…という手間が大幅に減りますんで、体感的には、どうかな、20%やそこいらは作業効率が上がった気がします。

ね? 欲しくなるでしょ話し聞いてると。いひひひ、買ったんさいって。高価だけれど絶対後悔しないから。で30inch Cinema HD Display買うとなればその機にMacも入れ替えるでしょ旦那。となりゃCSも導入するでしょ奥さん。そうして、OS9+イラレ8の呪縛が解けるぞと。世の中そうなりゃしめたモンです。ヒザワは存分にCSの機能をバージョンダウン保存を気にせず使えるし、やれ字詰めが違うからアウトライン化してとかそういう事にお互い悩まなくてすむじゃん。ね?

……と、あくまでもムーミンが申しております。僕じゃないですよ。僕はそんな自分本位な事言いませんもん。人それぞれ使い勝手の良い環境は様々なんだし事情だってあるんですから。ホント勝手なこと言うよなあこのムーミン……。
adobe様、しばらくは無理かと。


Appleからadobe CS3発売開始のメール。
ふーん、良かったですねー。(←棒読み)
昨日たまたま、あるカメラマンさんのblogがCS3届いた、という記事を載せていて、そしたらお仲間のカメラマンさん達が自分も買ったとか到着待ちだとかバシバシとコメントしてるんですよ。カメラマンすげー。導入早えー。そう言えば18日の撮影の時のカメラマンさんもCS3で随分作業早くなるぞと話してたっけ。
確かにカメラマンさんはね、処理速度にシビアにならざるを得ない部分があるとは思う。にしても新しい機材やソフトへの食いつきの早さは凄いなあと感心しますね。やっぱカメラというメカへの愛着という職業柄の気質が根幹にあるんでしょうね。
それに比べて僕らグラフィックの世界はコンサバティブですわ。
僕がOSX & CS2に移行したのが昨年秋。かなりイジイジウジウジ悩んでからの移行だったんだけど、案ずるより産むが易しで新環境は快適です。でもねー、まだ移行組は全然少数派でして、そもそも印刷会社や広告代理店ですらCSで入稿できるとこが少ない。移行前に懸念した通り、フォントと互換性の問題なのよねー。

・ そうしますと、バージョンダウン入稿を前提に作業しなくちゃなんない。
・ つまりCSの新機能はあんまし使えない。モッタイナイ。
・ 僕サイドでもclassic環境でイラレ8立ち上げてのチェックは必須になる。
・ そりゃあーた、CS3なんてとんでもナイすよ。classicの使えないintel Macでしか走らないんだから。

…そーか、CS3にするには僕の場合まずはPower Mac G5をIntel G5に買い替えなきゃならないんだ。今気づいた(遅)。いやそりゃadobeの旦那、せっかくメール頂戴しましたけど当分無理ですよ。バージョン「2」を「3」に上げるために買ったばっかりのMac本体を買い替える奇特な人いませんて。
ということで、まずはOSXがデファクトになる数年先までは、CS2で腕を磨くとしましょう。ま、「てやんでぃ、慣れた道具をそう簡単に変えらっかい」という気質自体は悪いもんじゃないとも思いますしね。
デパ地下の要所


隔月発行の某デパ地下食品媒体の撮影に立ち会う。またしても撮影後のケーキをいくつかいただいて完食してしまいました。うー、食い過ぎた。ホッペタつねったら毛穴からプニュッとクリームが出てきそう。この案件が毎週とかだったら半年でメタボリックの危機ですな。

さて50カットとか60カットとかを掲載する媒体となってくると、作り手側は「要所」ってモノを意識する必要が出てきます。誌面の中での視覚的・情報的なウエイトのバランサー役を担うのはどの部分か、ということを考えておかないと、目の行き場が散漫になって、なんとなくとりとめのない仕上がりになるんですね。もちろん大抵の場合、それはいわゆるイチオシ商品のカットだったり冒頭に載るカットになることが多いのですが、それとまた微妙に違う意味で、ここをカチッと締めておくと全体がまとまる、というような「要所カット」みたいなのもあったりして、カメラマンさんってのは凄いもんでたいがいラフを見せればこちらの意図を見抜いてくれたりする。
今回の僕の中での「要所カット」のうちのひとつはこのカット。
イメージはね、そうだなあ、この写真にキャッチコピーをつけるとするなら、題して、えー、「昭和初期くらいの文豪が午前中に仕事終わらせて優雅な午後を過ごしてるもんね的な感じ」。

……今、急に考えたにしてももう少しマトモなコピーを思い付けないもんですかね僕も。昭和の文豪と言っときながらそれらしい格調ってもんがまるでないではないですか。

こんなのはどうだ、「友は皆、今頃アクセクと働いているのであろう」。

……陰険だよ。ざまあみろみたいで余計格調低いではないか。格調格調、と。

「我思ふ このひとときの 贅沢を 皆にも教えて あげたいのよ」字あまり。字あまり以前の問題! 格調は忘れてもっとスパっと言い切ろう。

「ALWAYS 〜三丁目の贅沢〜」パクリじゃねえか!

「龍之介の午後」

おお、これいいじゃん。
…ってコピー載せるわけでもないのに何を思わず午前三時に没頭してるんだ俺は。

ま、そういうことで午後の陽射しにビールの黄色が天板に照り返す感じを再現して頂戴、とそこだけはこだわったら「木漏れ日」まで再現してくれました。僕のデジカメ写真だとなんてことない写真だけど、仕上がりはオシャレなんだなこれが。
貸レコードとカセットの頃


どういう訳か、ここ数日たてつづけに坂本龍一に出くわした。
……ご本人にお会いしたかのような書き方。そうではないです、すんません。
3日前に、ブックマークしてる複数のブログが示し合わせたようにYMOについて書いていて、おとつい、自宅に引き上げてあった昔の仕事のファイルを探すべくクローゼットをゴソゴソしてたら最上段から落ちて来て僕の頭頂部を直撃したのが「戦メリ」の譜面で、昨日コンビニで立ち読みした経済誌の巻頭に坂本龍一のとてもいいインタビュー記事があった。
ということでなんだか久々にYMOが聴きたくなって(なんちゅう単純な奴…)Amazonで注文したら、今日事務所に届いた。「ソリッド・ステイト・サヴァイバー」。何年ぶりの再会だろう? LPのジャケットデザインもよーく覚えてて懐かしいなー。
さっそくiTunesに取込みながら、仕事しながら一度通しで聴いてみました。「テクノポリス」や「ライディーン」といったヒット曲はもちろん、ほかの曲も全部覚えていた。「次はあの曲」と身体が覚えてる感じ。中学1年か2年の時かな、これ最初に聴いたのは。クラスにYMO信者みたいなのがいて、そいつにカセットテープにダビングしてもらったか、さもなくば当時の「貸しレコード」屋さんから借りたのをダビングしたか……
そうか、レコードには早送りという機能が無かったし、その時持っていたカセットプレーヤーにも頭出し早送りとか無かったから、当時はアルバムを買うと全部の曲を順番にまんべんなく聴いていたんですな。だから全部の曲をちゃんと覚えてるんだ。今はiTunesでお気に入りの曲だけを「いいとこどり」しちゃいますもんね。でもアーチストって、曲順も含め全部通しで1枚、という発想でアルバムを作るんでしょうから、iPodもMDも無かったかつてのほうが、リスナーはアーチストに対して礼儀正しい接し方をしてたのかもですね。ということで、もう一度、通しで頭から順番に聴いてみよう。2曲目の「ABSOLUTE EGO DANCE」が終わりに差し掛かると、身体が既に「ライディーン」のイントロに備えて準備(何の?)を始めるような気がする。おれはパブロフの犬か、と思いながらも、この感じ、悪くない。
伝説の店、こづち。
恵比寿駅近くに「めし処 こづち」という生ける伝説みたいな定食屋があるんです。質素な店構えのほんとに絵に描いたような定食屋。エビススタジオの向かいにあるもんで大物カメラマンやデザイナーといった同業界の大先輩もよく食べに行っているという話しを僕はずいぶん昔から友達のカメラマンや先輩デザイナーから聞かされていて(なんでも「こづちで喰わずして恵比寿を語るなかれ」という言葉もあるそうで。ほんまかいな)、なんと言いますか自分の中で勝手に伝説化されてしまっていて、あまりに敷居の低いその外観がかえって敷居になると言うか、えー、漫画家を志す人にとってのトキワ荘のような感覚とでも申しましょうか、なんかこう、恐縮してしまうところがあって、僕は恵比寿に事務所開いてから何年も経つってのにまだ入ったことがなかったんです。
で今日、お昼どーしよっかなーと考えつつ恵比寿駅から事務所に歩いていて「こづち」の前を通りかかり、む、恐縮を振り払って(ってたかが定食屋さんに恐縮してたってのがそもそもヘタレなんですが)入ってみるかと決意し、のれんをくぐってみた。

たしかに恵比寿という街は、チャラい店もあればこうした古い風情も息づく面白い街だが、この店内の雰囲気は別格の異次元だ。
壁一面に連なる品書き。黙々とメシをかき込む男たち。カウンターの向こうで揚げ物してたオヤジが顔を上げ、なんだよ、みたいな目でこっちを見る。
瞬時にして恐縮が復活。
空いていた椅子におそるおそる腰掛けると、物陰から現れたばあちゃんが物も言わずにカウンター越しに水をよこす。思わず、あ、すいません、と言って受け取る。
ばあちゃんが、なに食べんの? みたいな顔でじーっとこっちを見てる。
なにしろメニューが多すぎる。ばあちゃんがジーッと見てる。もはや、何を食べたいかというよりどうやって切り抜けるかという発想になる。
「あぅ、えと、日替わり定食とかってあるん…」
「肉豆腐」
「はっ?」
「肉豆腐」
「…それください」もしかしたら、僕は、すこし涙ぐんでいたかもしれない。

とにかく店の人も客も余計な口をきかない。もちろんBGMなんざ流れていない。たまにばあちゃんが味噌汁の鍋をガシュガシュとかき回す音以外は完全なる静寂の世界で、皆、黙々とメシをかき込んでる。スピリチュアルなものを感じる。
出て来た肉豆腐定食を食しながら、ようやく少し落ち着いた僕は、あらためて品書きを眺めてみた。



単品メニューがたいへん多い。なるほど、おそらく通い慣れた人は単品+ご飯+味噌汁、という注文の仕方をするんだろうなと納得。安くて旨い、という事前情報だった。たしかにチャーハンは350円。「生卵」が60円。でも「目玉焼き」は300円する。「焼いただけ」でなんでそんなに値上がりするんだろう。焼きそばに400円、肉炒めに480円の値をつけながら「肉入りや焼きそば」を450円で出す感覚が判らない。首をかしげながらなおも見ていくうちに、僕の目は一枚の品書きにフォーカスした。



「マヨネーズ20円」
タダにせいよババアと腹の中で毒づきながら、肉豆腐に醤油を少しかけていた僕は、もしかしたら「醤油10円」「お水5円」とかになってたらどうしようと慌てて残りの品書きを見る。さすがにそれはなかったですけど。

よくわからない店だ。いや、歴史と伝説の店である以上、僕がその境地に(その境地ってのがどの境地なのか知りませんが)達していないのでありましょう。きっとこの店で、顔もあげずに「焼きハムとアジフライにライス小。今日は味噌汁いいや」とか注文できた時、僕は人として男として、ひと皮むけるに違いない。