デザインの現場から。と言いつつほぼデジカメの噺。
by MASANOBU HIZAWA(アートディレクター/グラフィックデザイナー)
http://www.neelmartin.com/
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今更ながら字詰めに迷う
仕事内容によってはIn Designを起動する事もあるにはあるのだけど、僕の場合やはりまだIllustratorの使用率のほうが高い。Illustratorって自由度の高いソフトなんだけど、文字組、とくに字詰めの設定には未だに迷います。長年使ってるくせに。
いい感じかなと思っても、翌日見たらなんだか詰まり過ぎてるなと感じたりその逆だったり。ま、絶対的な正解というものの無い話しだから、案件毎にちゃんと調整するのが基本だとしても、自分なりの標準形、みたいなのは作っておきたいんですよね。

「新・文字組みとレイアウト」なる本が出たので買ってみました。実際に世に出ている色んな出版物の実際の文字設定が見れるという有り難い本。

20110305.jpg

アラ意外と皆さんシンプルな設定なんだなあというのが感想。もちろん、あれやこれやごちゃごちゃやらずに美しい誌面を作れてる、というのは、上手い、ということです。……けどそんな字詰め設定で掲載例みたいになるか?、と思ったやつもあって、試しに自分でイラレ立ち上げて同じように設定してみたらやっぱりかなり違う結果に。これは、きっと「段落」設定の中の「文字組み(「行末約物半角」とかあるあそこね)」に、オリジナルの設定を加えてるんでしょう皆さん(僕もオリジナルの設定作ってます)。……本を見ながら、僕は、「イヤそこを見せてくださらんと…」という微妙な気持ちになってしまった。中途半端に使えない本買っちゃったかな。
段組になった本文は極力シンプルな形でやるのがいいんでしょうけど、1行や2行だけのコピーとかは字詰めで変わりますもんね。でも「自動」や「オプティカル」で詰めると明らかに詰まり過ぎになる事が多いので、トラッキングを入れて緩和してるというのが僕の現状。

20110305b.jpg

でも詰めておきながらトラッキング入れるのって、塩を入れ過ぎてしょっぱくなったから砂糖入れてるみたいな気がしてちょっと違和感あるんですよね……。
無精なコト言っとらんと「手詰め」せい、ということかいな(^_^;
リッチなブラック


リッチブラック。通常の4色オフセット印刷で、K100%より深みのある黒を再現したい時にC、M、Y版も掛け合わせて出す黒のことをそう呼ぶのですが、その掛け合わせ数値は人によってそれぞれだったりします。そもそもリッチブラックは、安易に使うと失敗することもあるし、小さな面積や文字等に使っても効果がないですし、印刷工程では乾きが悪くなったり裏写りしやすくなったりするので印刷会社さんからは基本的には好まれないことが多いです。なので僕は、比較的「安全に」リッチブラックを使いたい時には、C50・M40・Y40・K100、という数値を使ってますが他のデザイナーはどうしてるのかな? ただそれはIllustrator等デザインソフトで色指定を入れる時の話しであって、例えば黒背景の製品写真を角版で配置するような場合、その背景の黒(あくまで写真としての)は、CMYK分解された時には特に調整しないかぎり自ずとよりリッチなブラックになります。ちなみにphotoshopでカラープロファイルをJapan Color 2001 Coatedにしている場合のデフォルトの「真っ黒」はC93・M88・Y89・K80という、かなーりリッチな掛け合わせになります。
で、今回とあるメーカーさんのパンフレットのデザインをさせていただきまして、そのメーカーさんというのはおそらく画像データの色においては日本有数に厳密なはずで(なにしろ画像データそのものを産み出す製品を出している、皆さんご存知のところです)、そこから頂いたCMYKデータの「真っ黒」部分というのが上記のphotoshopのデフォルトとはまた微妙に違う数値で、僕としては、おお、かの○○社が採用?してるリッチブラックの数値を図らずも知ってしまった、これでまた新たなノウハウが蓄積できた、と、ひとりMacの前で冷たい微笑を不気味に浮かべていたのでした。と、ここまでは前置き。
本題は何かと言うとですね、昨日入稿したそのパンフレットで、そのかなーりリッチなブラックの上にゴシックMBの「Light」を4.5ptの白ヌキで、という、いささかシビアな配置をした箇所がありまして……。白ヌキ文字というのはインクが何も無い状態(CMYK各0%)で再現されるわけで、その背景がリッチブラックですと4つのインクがその周囲から攻めてくるわけで、インクの盛り上がりが侵略してくることで細い白ヌキが潰れてしまいやすくなる。
経験上、これキビシイかもなと思って、フォントを「Regular」にして少し大きく直した「Bバージョン」もお渡ししたのですが、印刷の現場のほうから、元のほうで頑張るという連絡。頼もしい。

……何の話しをしようとしてるのかだんだん自分でもわからなくなってきたのですが、DTPの時代にあっても印刷物ってのは紙にインクを刷ってできるのですから、僕らデザイナーはインクや紙に対しての勘を鈍らすことなく仕事しなくてはいけませんですね、ということではなかろうかと思います(客観的になってる)。
たまにはグラフィックデザイナーらしいことも書かなくてはと思い、ウンチクっぽいことを書き始めたもののなんだか収拾がつかなくなってまいりましたがせっかくここまで書いたのでアップしておきます。それでは皆様お休みなさい。
美味なたい焼きとUCR値の問題


駅からオフィスへの道中に昨年たい焼き屋がオープンしていて、たまーに買ってます。餡から自家製造してるだけあってベラボーに旨い。たい焼きに限らないけど出来合いの物をレンジであっためるのではなく、その場で焼きたてのやつをもらってホカホカ持って行くってのはなんとなくまっとうな喰いものという感じがしていいですね。そんな訳で本日新聞広告の入稿を済ませました(話しの流れがよくわかりませんが)。
パンフレット、カタログ、ポスター、雑誌広告、パッケージ、Webと色んな媒体のデザインをやってきてますが実は新聞広告は経験が少なくて、3年前にやった時は写真はポジ入稿だったし、おととしくらいにデータでやった時は白黒ページだったしで、新聞の完全データ入稿はカラーではたぶん初めてではなかろうか? 自分でも意外でしたが。
新聞の場合は入稿規定がいろいろ細かくて、特にカラー画像は少し面倒。例えばS新聞だとCMYKインクの総量上限が240%なんですね。photoshopのカラー設定で「新聞用」というCMYKのプリセットを選べば規定に沿った画像を作ること自体は簡単なんですが、元画像と見比べると色の深みがゴッソリと持っていかれてしまった感じで悲しくなります。とは言え新聞紙上で綺麗な写真を見かけることもある以上、そこが分解の腕の見せ所なのかなということでプリセット使わずに自力でやってみるかと思い、元画像に戻って自分でトーンカーブをいじって調整もしてみたんですが、いかんせん240%はキビし過ぎません?(ちなみにJapan Color 2001のUCR値は350%)。みんなどうしてるんだろう、と素朴に疑問に思った次第でして。カメラマンさんとかが色域にどんだけこだわっても、出力段階でのUCR値がそんなに狭いんじゃねえ。印刷する側にとってインクの多いデータが厄介なのはわかるんだけど、そこはひとつ、ガッツで乗り越えていただきたい。
そもそもにしてY新聞の入稿マニュアル見るとイラレのバージョンは10までになってるし、おしなべて新聞社のデジタル対応は遅れてる感じがしますね(ま、デジタル対応とインク量の問題とは本質的には別物ですけど)。
CSイラレの機能はバージョンダウン保存のできないものも多いので、新聞社や雑誌社がこんな調子ですと僕らはいつまでもCSの新機能を思う存分に使うことができないわけです。そこんとこ頼みますよひとつ。
メイキング & Tips「ショッピングモール、冬」
ちょっぴりご無沙汰の「メイキング & Tips」、第2弾いきましょう。
画像処理系の仕事の紹介が続くのもなんだから、何か企画段階のプロセスを見せれるような広告仕事を…と思ってたんですが、中途段階のデータの用意とかが思いのほかめんどくさそうだったので、それはまた今度。
ということで前回も紹介したショッピングモールのポスターの、冬バージョンをば。



この時は、カメラマンさんにお願いする撮影要素は2点だけでした。タレントさんと、リボン巻いた発泡スチロールのボール。



とりあえず切り抜いて、配置。



……これだけだと「空気感」も「奥行き感」もなーんもない、ただの2次元コラージュですね。
ほんの少し、光のニュアンスを出してやると……



少しファンタジックな一枚物になってきたかな? ボールの下が明るくなってるのは、後からキラキラ光る星が溜まる予定なのでその反射という意図。球体への照り返しその他、細かいとこは最後に楽しみながらやりましょう。
この辺は、ドゥルー・ストゥルーザンが描くスターウォーズのポスターのイラストとか、ディズニー映画のアートワークなんかに結構影響されてますね。



真似ではありません、オマージュです……。

なんにしても、この辺は「Photoshopのテクニック」という解釈をされると僕としては困ります。
さて今回も「ひたすら根気よく」のお時間。「キラキラ星」をひとつずつ、配置してまいりましょう。



こんなのも適当に並べると不思議なものでたちまち「奥行きの無い感じ」が出てしまう。必ず3次元の概念の中での、ひとつひとつの位置関係を意識しなくては駄目なんですね。何事もやっぱりデッサン(観察して、描く)が基本になってくるんですね。



軽くした画像をメール添付して代理店さんとやりとりし、幾度かの修正を経てこの段階で一応は完成。
前述の、デッサンとか奥行き感とかいう観点から言わせて頂くと、自分としては若干不満な修正もアリ。最初は彩ちゃんの手からキラキラが溢れ出る、というイメージ(手より上側にはキラキラは無し)だったんですが、画面上部もキラキラさせて、いっそ空から星がキラキラと舞い落ちてくる感じにできないかというオーダーが中途で入りまして。確かに賑やかにはなるだろうけど、明らかに距離感やスケール感が破綻してしまうので僕的には嫌だったんですよね。ま、スケール上のリアリティーも大事だけどファンタジーも大事という先方の言い分にも一理も二理もあるのでシブシブ納得。で、これでクライアントさんのOKも出たんですが……
翌日になって代理店ディレクター氏からコメントが。「リボンが無地ってのが、なんか寂しいかな」。
実は僕も同じこと思ってたんです。
白い玉は「cocoon=繭」という店名からきたアイコンで、それにリボンをかけることでクリスマス・ラッピングを象徴してるわけです。クリスマス・ラッピング用のリボンが無地ってのはいかがなものか。
その旨言ってみたら、
「…この無地のリボン用意したのヒザワさんじゃないですか」
そうだった。すいません。
しかしもはや撮り直しの時間はないし、そもそも店名やMerry Xmas等のメッセージの入ったリボンの現物もない。
「CGでなんとかなりません?」と言われたものの、さすがに技術的な裏付けが思い浮かばず即答はできませんでした。3D? いやあ相手は複雑な結び目もある布だ。柄の位置をピタリと合わせるなんて芸当は僕には無理。そこで、現時点の仕上がりでクライアントさんのOKが出てるのをいいことに「預かり」の課題にさせてくださいと頼む。今日一日トライしてみて、うまくいったら提示させてもらう、ということにしてもらいました。
「キラキラ星」を200個とか並べる作業で朝を迎え精魂尽き果ててたんですが、アタクシにも意地っちゅうもんがあります。じっちゃんの名にかけて(?)なんとかしてみせようぞと決意してMacに向かう。
画像をガイドにして、イラレとフォトショで「柄」を2次元で描いてみました。



こんな感じ。Tipsとか言いながら、どーやって作ったのか覚えてません。
リボンの生地質感を殺さないように合成し、その後せっかくだから照り返しや光の回り込みなんかを存分にやって、200以上あったレイヤを全て定着させ、企業秘密の雰囲気出しの魔法をモジョモジョと(切り貼り感の生っぽさを消す作業ですね。ま、ほとんど自分の気が済むようにやってるだけですけど(笑))かけて……



完成。
さっきも書きましたが、デジタル云々、CG云々というより限りなく絵画的な発想で描いたビジュアルになった感じでした。
記述した事以外にも、こちらの意図する世界観がなかなか代理店さんサイドに通じなかったりする事もあって道中はしんどかったですが、なにより最終的にクライアントさんが喜んでくれて、また買い物に来たお客さんからの評判も良かったという報告を頂けたのが何よりの酬いでした。

次回はなにか、発想とかアイデアとか、そっち系の案件の話しを書こうかな。と言いつつこのシリーズ、あとふたつあるんでネタに困ったらまた書きます。
メイキング & Tips「ショッピングモール、秋」
たまには実際の仕事の技術的な話しも書きましょうかね。
ブログになって、字数も画像数も融通が効くようになったわけですし。
業界以外の方にとっても、ふだん目にする広告物がどんなふうに作られてるのか、興味あるかも知れませんしね。(て言いますか僕自身が、いわゆる「メイキング物」大好きなのよね。前も書いたけど「もののけ姫」は一度観たきりなんだけど「もののけ姫はこうして生まれた」のほうは5回くらい観てるという……)
進行中の案件や新作だと不都合もありましょうが、1〜2年経ったやつならいいでしょう。

では一発目、04年秋に作ったショッピングセンターのポスターです。



僕のラフを渡した上でカメラマンが撮ってくれたのが、
1. 白ホリバックのタレントさん
2. 透明アクリルのボール
3. 木の葉(模型)数点。



まずは淡いグラデーションにバンディング(印刷した時に出る諧調の縞)防止のためぼかしやノイズを加えた背景を用意し、切り抜いたタレントさんとボールをとりあえず配置。



髪の毛は別レイヤにして「比較ー暗」で重ねる。「下地」「素材の背景」「髪」の明暗関係さえきちんとしてればこれが一番かなと思います。でも髪のハイライトのとこは後からちゃんとケアしましょう。



せっかく撮ってもらったボールですが、いささか上手く撮れ過ぎていて、ミニチュアを拡大した感じがバレてしまう…。キレイ過ぎるんですね。
も少しランダムな反射が欲しくて、3Dで球体作ってみる。



撮影されたボールとCGボールとで彩ちゃんを挟むように重ねてみる。CGボールのレイヤ演算は「ハードライト」で。



うーん、まだツルツルし過ぎで嘘っぽい(嘘なんだけど)。
「汚れ感」が欲しくて、東急ハンズ行って直径20cmくらいのアクリル玉買って、事務所の机の上に紙ひいて自分でデジカメで撮ってみる。



さすが素人! 汚い写真だなあ(と、喜んでる奴)。真ん中あたりの汚なすぎる映り込みは消した上で早速こいつも重ねてみる。



いい感じにねりましたねー。プロの写真、僕の写真、CGの「いいとこどり」。
粒状感を、彩ちゃんを基準に球体のほうにも施す。

あとはひたすら丁寧に、根気よく。素材の葉っぱを、変形しながら並べます。



一番上のCGボールレイヤのハイライトを生かして、その下に葉っぱを。個別に明るさをいじって遠近感を出します。おっと光の向きに合わせた「嘘ハイライト」や「嘘シャドウ」もちょいと必要ですわ。なるべく奥の目立たない葉っぱに施して、手前のは本来のライティングを生かしましょう。
ホントは前後の葉っぱでぼかしも変えて雰囲気出したいんですが、球体の奥に彩ちゃんがいる設定なので、奥の葉っぱがボケててその奥の彩ちゃんがシャープだと理屈がおかしくなりますんで我慢。
球体の中に照り返す木の葉のオレンジ色をほんのり加え、影をつければ……



出来上がり。レイヤ数は42。ま、そんなもんでしょう。
全部を定着させてから、全体を複製して多少の雰囲気出しの処理(ここで結構ぐっと変わるんだけど、さすがに秘密。えへへ)。この時は4×5のポジに出力したんだったかな。

……なんだかこうやってダイジェストで書くとえらくチャッチャとできたみたいに思えるなあ。結構大変だったのよね、特に球体の質感は悶絶しつつ。
どうなんでしょう、この「メイキング & Tips」。好評なようならたまーに書いてみようかな。いやでもメイキングを披露するようなネタ、そんなにあるっけアタクシってば?